1941年6月、独ソ不可侵条約を破棄してソ連に侵攻したナチス・ドイツ軍。占領下のウクライナ各地に傀儡政権をつくりながら支配地域を拡大し、9月19日についにキエフを占領する。9月24日、統治体制の変化で混乱するキエフで多くの市民を巻き込む大規模な爆発が起きた。これはNKVD(ソ連秘密警察)がキエフから撤退する直前に仕掛けた爆弾を遠隔操作で爆破したのだが疑いの目はユダヤ人に向けられた。翌日、当局はキエフに住むユダヤ人の殲滅を決定し、全ユダヤ人に出頭を命じた。
1941年9月29日から30日にかけて、アインザッツグルッペ(移動虐殺部隊)Cのゾンダーコマンド4aは、警察南連隊とウクライナ補助警察の支援を受け、地元住民の抵抗もなく、キエフ北西部のバビ・ヤール渓谷で33,771名のユダヤ人を射殺した。女も子供も老人も皆身ぐるみを剥がされ無慈悲に殺された。本作品はホロコーストにおいて一件で最も多くの犠牲者を出した人類史上最も凄惨な事件とその衝撃の結末を全編アーカイブ映像で描く。記憶が忘却へ変わり、過去が未来に影を落とそうとする時、真実を語るのは映画である。ウクライナ侵略戦争勃発以降、世界が最もその動向に注目する異才セルゲイ・ロズニツァ(『ドンバス』、『国葬』)によるホロコースト映画の決定版。
Director, Sergei Loznitsa
セルゲイ・ロズニツァ
1964年ベラルーシで生まれ、ウクライナの首都キーウ(キエフ)で育つ。1987年にウクライナ国立工科大学を卒業し数学士の資格を取得する。その後、1987年から1991年まで国立研究所で科学者として人工知能の研究をしていたが、1991年のソ連崩壊の年にモスクワの全ロシア映画大学(VGIK)に入学し映画製作者への道へ転身する。1996年よりソクーロフの製作で有名なサンクトペテルブルク・ドキュメンタリー映画スタジオで映画製作を始め、これまで26作のドキュメンタリーと4作の長編劇映画を発表してきた。長編劇映画では『In The Fog』(2012)が第65回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞し、『ドンバス』(2018)が同《ある視点》部門監督賞に輝く。2021年のカンヌ国際映画祭(5月)に発表したドキュメンタリー『バビ・ヤール』(2022年9月24日公開)は第74回カンヌ国際映画祭ドキュメンタリー部門《ルイユ・ドール》審査員特別賞に輝き、同年11月の2021年アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭で発表した『Mr. Landsbergis』(2022年12月初旬公開予定)は最優秀作品と最優秀編集賞の2冠に輝いた。2022年、ロズニツァは、本年度、『The Natural History of Destruction』を第75回カンヌ国際映画祭で発表し、最新作となる『Kiev Trial』は第79回ベネチア国際映画祭への選出が決定した。