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2020年公開 ——群衆3選 時代を突き動かす群衆の顔

国葬
2019年/オランダ、リトアニア/ロシア語/カラー・モノクロ/135分/日本語字幕 守屋愛
1953年3月5日。スターリンの死がソビエト全土に報じられた。リトアニアで発見されたスターリンの国葬を捉えた大量のアーカイヴ・フィルムは、同時代の200名弱のカメラマンが撮影した、幻の未公開映画『偉大なる別れ』のフッテージだった。そのフィルムにはモスクワに安置された指導者の姿、周恩来など各国共産党と東側諸国の指導者の弔問、後の権力闘争の主役となるフルシチョフら政府首脳のスピーチ、そして、ヨーロッパからシベリアまで、国父の死を嘆き悲しむ幾千万人の人の顔が鮮明に記録されていた。67年の時を経て蘇った人類史上最大級の国葬の記録は、独裁者スターリンが生涯をかけて実現した社会主義国家の真の姿を明らかにする。

粛清裁判
2018年/オランダ、ロシア/ロシア語/モノクロ/128分/日本語字幕 守屋愛
1930年、モスクワ。8名の有識者が西側諸国と結託しクーデターを企てた疑いで裁判にかけられる。この、いわゆる「産業党裁判」はスターリンによる見せしめ裁判で、90年前に撮影された法廷はソヴィエト最初期の発声映画『13日(「産業党」事件)』となった。だが、これはドキュメンタリーではなく架空の物語である——— 発掘されたアーカイヴ・フィルムには無実の罪を着せられた被告人たちと、彼らを裁く権力側の大胆不敵な共演が記録 されていた。捏造された罪と真実の罰。スターリンの台頭に熱狂する群衆の映像が加えられ再構成されたアーカイヴ映画は、権力がいかに人を欺き、群衆を扇動し、独裁政権を誕生させるか描き出す。

アウステルリッツ
2016年/ドイツ/ドイツ語、英語、スペイン語/モノクロ/94分/日本語字幕 吉川美奈子
ベルリン郊外。真夏の陽光を背に吸い寄せられるように群衆が門を潜っていく。“Cool Story Bro”とプリントされたTシャツを着る青年。辺り構わずスマートフォンで記念撮影をする家族。誰かの消し忘れた携帯からはベートーヴェン交響曲第五番「運命」の着信音が鳴り響く。ここは第二次世界大戦中にホロコーストで多くのユダヤ人が虐殺された元強制収容所だ——— 戦後75年、記憶を社会で共有し未来へ繋げる試みはツーリズムと化していた。私たちは自らの過去にどのように触れたらよいのだろうか。ドイツ人小説家・W.G.ゼーバルト著書「アウステルリッツ」より着想を得て製作した、ダーク・ツーリズムのオブザベーショナル映画。
2021年公開 ——現在のロシア=ウクライナ戦争を考える

ドンバス
2018年/121分/ウクライナ語、ロシア語/製作:ドイツ、ウクライナ、フランス、オランダ、ルーマニア/日本語字幕 守屋愛
2014年に一方的にウクライナからの独立を宣言し、親ロシア派勢力「分離派」によって実効支配されているウクライナ東部ドンバス地方。ウクライナ軍との武力衝突が日常的に起きているこの地域にはロシア系住民が多く住み、「分離派」の政治工作によってウクライナ系住民との分断が深まり内戦となっ ている。フェイクニュースやプロパガンダを巧みに駆使する近代的な情報戦と、前時代的で野蛮なテロ行為が横行するハイブリッドなドンバス戦争を、ウクライナ出身の異才セルゲイ・ロズニツァ監督がダークユーモアを込めながら描く—— 今日の戦争でロシア軍の所業を知った今、もはやまったく笑えない映画に変貌を遂げた。2018年カンヌ国際映画祭《ある視点》部門監督賞受賞作品。

バビ・ヤール
2021/121分/オランダ=ウクライナ/ウクライナ語、ロシア語、ドイツ語、ポーランド語/4:3/カラー・モノクロ/日本語字幕 守屋愛
1941年6月、独ソ不可侵条約を破棄してソ連に侵攻したナチス・ドイツ軍。占領下のウクライナ各地に傀儡政権をつくりながら支配地域を拡大し、9月19日についにキエフを占領する。9月24日、統治体制の変化で混乱するキエフで多くの市民を巻き込む大規模な爆発が起きた。これはNKVD(ソ連秘密警察)がキエフから撤退する直前に仕掛けた爆弾を遠隔操作で爆破したのだが疑いの目はユダヤ人に向けられた。翌日、当局はキエフに住むユダヤ人の殲滅を決定し、全ユダヤ人に出頭を命じた—— 1941年9月29日から30日にかけて、アインザッツグルッペ(移動虐殺部隊)Cのゾンダーコマンド4aは、警察南連隊とウクライナ補助警察の支援を受け、地元住民の抵抗もなく、キエフ北西部のバビ・ヤール渓谷で33,771名のユダヤ人を射殺した。女も子供も老人も皆身ぐるみを剥がされ無慈悲に殺された。本作品はホロコーストにおいて一件で最も多くの犠牲者を出した人類史上最も凄惨な事件とその衝撃の結末を全編アーカイブ映像で描く。記憶が忘却へ変わり、過去が未来に影を落とそうとする時、真実を語るのは映画である。ウクライナ侵略戦争勃発以降、世界が最もその動向に注目する異才セルゲイ・ロズニツァ(『ドンバス』、『国葬』)によるホロコースト映画の決定版。
2021年〜2022年 公開 ——ソ連崩壊につながる二大歴史イベント

ミスター・ランズベルギス
2021年/リトアニア=オランダ製作/リトアニア語、ロシア語、英語/248分/モノクロ・カラー/日本語字幕 守屋愛
ピアニストで国立音楽院の教授のヴィータウタス・ランズベルギスは、祖国リトアニアの主権とソ連邦からの独立を訴える政治組織サユディス(=運動の意味)の指導者となる。1990年3月11日の第一回リトアニア最高会議で議⻑に選出され、同日、ソ連に対して独立を宣言するとゴルバチョフとの 対立が表立って激化する̶̶ 独立の気運を高めた連帯“バルトの道”、経済封鎖による物価上昇と社会の混乱、国内共産党との確執、首都ヴィリニュスでのソ連軍による軍事パレードから事実上ペレストロイカの終焉を世界に告げることとなったヴィリニュスの軍事占拠“血の日曜日事件”などと、1980 年後半から91年9月のリトアニア独立にかけて起きた歴史的な出来事を当時のニュース映像などのアーカイヴフッテージを交えながらランズベルギス氏が語る。

新生ロシア1991
2015年/70分/ベルギー=オランダ/ロシア語/4:3/日本語字幕 守屋愛
1991年8月19日。ペレストロイカに反対する共産党保守派がゴルバチョフ大統領を軟禁し軍事クーデターを宣言した。テレビはニュース速報の代わりにチャイコフスキーの「白鳥の湖」を全土に流し、モスクワで起きた緊急事態にレニングラードは困惑した市民で溢れかえった。夜の街では男がギターを掻き鳴らしウラジーミル・ヴィソツキーの「新時代の歌」を歌い、ラジオからはヴィクトル・ツォイの「変化」が流れた。自由を叫んだ祖国のロックが鳴り響くレニングラードは解放区の様相を呈し、8万人が集まった宮殿広場でついに人々は共産党支配との決別を決意する—— 本作品はレニングラードの8名のカメラマンが混乱する市中に紛れ撮影した映像をセルゲイ・ロズニツァが手にし、3日間で終わった「ソ連8月クーデター」に揺れながらもロシアの自由のため立ち上がったレニングラードを再構成する。
2023年公開 ——戦争と正義

キエフ裁判
2022/オランダ=ウクライナ製作/106分/モノクロ 1.33/5.1ch/ロシア語、ウクライナ語、ドイツ語/日本語字幕 守屋愛
第二次世界大戦末期、連合軍はイギリス空爆の報復として敵国ナチ・ドイツへ「絨毯爆撃」を行った。連合軍の「戦略爆撃調査報告書」によるとイギリス空軍だけで40万の爆撃機がドイツの131都市に100万トンの爆弾を投下し、350万軒の住居が破壊され、60万人近くの一般市民が犠牲となったとされる。技術革新と生産力の向上によって増強された軍事力で罪のない一般市民を襲った人類史上最大規模の大量破壊を描く。人間の想像を遥かに超えた圧倒的な破壊を前に想起する心をへし折られた当時のドイツ文学者たちと、ナチ・ドイツの犯罪と敗戦国としての贖罪意識によってこの空襲の罪と責任について戦後長い間公の場で議論することが出来なかった社会について考察するドイツ人作家W.G.ゼーバルトの「空襲と文学」へのアンサー的作品。

破壊の自然史
2022/ドイツ=オランダ=リトアニア製作/105分/1.33 カラー・モノクロ/5.1ch/英語/日本語字幕 渋谷哲也
第二次世界大戦末期、連合軍はイギリス空爆の報復として敵国ナチ・ドイツへ「絨毯爆撃」を行った。連合軍の「戦略爆撃調査報告書」によるとイギリス空軍だけで40万の爆撃機がドイツ の131都市に100万トンの爆弾を投下し、350万軒の住居が破壊され、60万人近くの一般市民が犠牲となったとされる。技術革新と生産力の向上によって増強された軍事力で罪のない一般市民を襲った人類史上最大規模の大量破壊を描く。人間の想像を遥かに超えた圧倒的な破壊を前に想起する心をへし折られた当時のドイツ文学者たちと、ナチ・ドイツの犯罪と敗戦国としての贖罪意識によってこの空襲の罪と責任について戦後長い間公の場で議論することが出来なかった社会について考察するドイツ人作家W.G.ゼーバルトの「空襲と文学」へのアンサー的作品。

SEGEI LOZNITSA |セルゲイ・ロズニツァ
1964年にベラルーシで生まれ、ウクライナの首都キーウで育つ。1987年にウクライナ国立工科大学を卒業後、国立研究所で人工知能の研究をする。1991年のソ連崩壊の年にモスクワの全ロシア映画大学に入学。在学中からドキュメンタリー映画を作り始め、2000年よりソクーロフの製作会社サンクトペテルルク・ドキュメンタリー映画スタジオに所属する。これまで27作のドキュメンタリーと4作のフィクションを監督する。主な受賞歴は、第65回カンヌ国際映画際国際映画批評家連盟賞(In the Fog・日本未公開)、第71回カンヌ国際映画際ある視点部門監督賞(ドンバス)、第75回カンヌ国際映画祭ドキュメンタリー部門最高賞ルイユ・ドールなど。
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