—INTRODUCTION
ロシアーウクライナ戦争の背景、ドンバス戦争を描く
2014年に一方的にウクライナからの独立を宣言し、親ロシア派勢力「分離派」によって実効支配されているウクライナ東部ドンバス地方。ウクライナ軍との武力衝突が日常的に起きているこの地域にはロシア系住民が多く住み、「分離派」の政治工作によってウクライナ系住民との分断が深まり内戦となっている。フェイクニュースやプロパガンダを巧みに駆使する近代的な情報戦と、前時代的で野蛮なテロ行為が横行するドンバスのハイブリッド戦争を、ウクライナ出身の異才セルゲイ・ロズニツァ監督がダークユーモアを込めながら描く—— 今日の戦争でロシア軍の所業を知った今、もはやまったく笑えない映画に変貌を遂げた。2018年カンヌ国際映画祭《ある視点》部門監督賞受賞作品。
—STORY
クライシスアクターと呼ばれる俳優たちを起用して作るフェイクニュースから始まり、支援物資を横領する医師と怪しげな仕掛人、湿気の充満した地下シェルターでフェイクニュースを見る人々、新政府への協力という口実で民間人から資産を巻き上げる警察組織、そして国境での砲撃の応酬……。無法地帯“ノヴォロシア”の日常を描く13のエピソードは、ロシアとウクライナの戦争をすでに予見していた。ここでは一体何が起きているのだ。
—DIRECTOR
セルゲイ・ロズニツァ
1964年ベラルーシで生まれ、ウクライナの首都キーウ(キエフ)で育つ。1987年にウクライナ国立工科大学を卒業し数学士の資格を取得する。その後、1987年から1991年まで国立サイバネティックス研究所で科学者として人工知能の研究をしていたが、1991年のソ連崩壊の年にモスクワの全ロシア映画大学に入学する。1996年よりソクーロフの製作で有名なサンクトペテルブルク・ドキュメンタリー映画スタジオで映画製作を始め、これまで24作のドキュメンタリーと4作の長編劇映画を発表してきた。長編劇映画では『In The Fog』(2012)が第65回カンヌ国際映画祭で国際映画批評家連盟賞を受賞し、『ドンバス』(2018)が同《ある視点》部門監督賞に輝く。2021年に発表した『Babi Yar. Context』は第74回カンヌ国際映画祭ドキュメンタリー部門《ルイユ・ドール》審査員特別賞に輝き、『Mr. Landsbergis』は2021年アムステルダム国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀作品と最優秀編集賞の2冠に輝く。最新作『The Natural History of Destruction』は2022年カンヌ国際映画祭に選出が決定する。現在、長編劇映画『Babi Yar』もプリプロダクション中。