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破壊と創造の、

建築の黙示録

ベイルートはシリア人移民労働者にとって

希望であり地獄でもある。

シリアと同じく長い内戦(75年-90年)を経験したベイルートは、近代建築と歴史的建造物が混在した美しい街並みで多くの観光客を魅了しているが、建設ブームに沸く海岸沿いは超高層ビルの乱開発が進んでいる。内戦で家を奪われた多くのシリア人は、これら建設現場の劣悪な環境で労働を強いられている。

子供の頃、世界は“苦い味”がすると思っていた———。

中東のパリ、ベイルート。地中海を眺望する超高層ビルの建設現場でシリア人移民・難民労働者たちは静かに働いている。ある男が、出稼ぎ労働者だった父がベイルートから持ち帰った一枚の絵の記憶を回想する。絵には白い砂浜、青い空、そして2本のヤシの木が描かれていた。男が少年の頃初めて見た海の記憶だ。待ち焦がれていた父の帰還に少年ははしゃぐ。顔を撫でてくれた父の手はセメントの味がした。父は少年に語った。“労働者は戦争が国を破壊し尽くすのを待っているんだ”。男は異国で父への想いを巡らせる———

戦争と建設のイメージ。喪失と悲しみの記憶を詩的情緒豊かに紡ぐ圧倒的な映像美は、自らが生きている世界と同じ地平の中に傷ついた人たちがいることを伝える。祖国を亡命した若き元シリア兵のジアード・クルスーム監督が果敢に創り上げた革新的ドキュメンタリー作品!!

​監督・脚本

​ジアード・クルスーム

1981年シリア・ホムス生まれ。現在ベルリン在住。映画大学卒業。2009年に、クルド人女性グ ループを追った短編ドキュメンタリー『OH MY HEART』を制作するも、政治的な理由でシリア 国内での上映が禁止された。2010年、シリア政府軍に徴兵される。2011年、デモ鎮圧のため派 兵されたダマスカスでデモ隊が兵士に殺されるのを目撃する。2012年、シリア内戦が激化していくなか、初の長編映画『THE IMMORTAL SEARGANT』を制作し始める。本作品は2014 年ロカルノ国際映画祭でプレミア上映され、英国国営放送が主催する“BBC Arabic Festival 2015” で最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞する。自国民同士の殺し合いに加担する事を拒否し、2013年に政府軍を抜けベイルートへ亡命し『TASTE OF CEMENT』の撮影を始める。2017年に完成した本作品は、世界60カ国100以上の映画祭に招待され、2017年ヨーロッパ映 画賞、2018年ドイツ映画賞へのノミネートのほか、世界30以上のタイトルを受賞する。

ディレクターズ・ノート

ベイルートの内戦が終わり20 年が経ちます。自国民同士が殺 しあう祖国シリアを逃れ私はこの国にたどり着きました。新たな 地で生活を始めた私は、脳裏に焼きついた暴力と死の記憶を 消すため、日々あてもなくベイルートの道という道を歩きました。 長い戦争は終わり、復興を遂げているベイルートですが、街のあ らゆるところに砲撃を受けた大きな穴や、瓦礫のまま放置されて いる廃墟を目にします。その光景は、ベイルートの人々に過去の 悲しい戦争の記憶を思い起こさせ、そして、私に祖国シリアで起 きている忌まわしい戦争を思い出させ苦しめます。しかし、戦争で破壊された建物を覆い隠す様に生えている植物は、生命のたくましさと再生の可能性を示し私に希望を与えてくれます。

ベイルートの朝はいつも建設現場の騒音で始まります。空を見上げるとあちこちに巨大なクレーンがそびえ立っています。そして街角では多くのシリア人移民労働者が重たい建材を黙々と運ん でいるのを目にします。彼らの多くは低賃金労働と衛生環境の悪い場所での生活を余儀なくさせられています。私は、基本的人権すら保障されず異国で働く同胞の取材を始めました。

ある日、シリア人労働者のコミュニティーから、建設中の 32階建てのオーシャンビューのビルがあると聞きました。その建設サ イトには地下へとつながる大きな穴があるというのです。その地下 には多くのシリア人を含む 200 人以上の労働者が生活をしていて、毎朝蟻のように列をなしてその階段を登り建設現場で働き、日が沈むとまた列をなし てその穴を下っていくというのです。この時代にレバノンにそのような労働現場がある事に驚くと同時に強い興味を持ちました。

長い交渉の末、ビルの撮影許可を得た私はカメラマンと内部に入りました。彼らは皆寂しげな目をしていました。建設現場の外には「シリア人労働者の外出を禁止する」と書かれた大きな横断幕が貼られ彼らの外出を阻止しています。彼らは労働が終わると地下に戻りニュースをつけ、破壊されつくされた祖国を虚 無的に見つめます。

彼らはまるで巨大な牢獄で暮らしているようでした。美しい街と海は目の前にあるのに触れ合うことすらできません。シリア人労働者たちは祖国から亡命し、異国でアイデンティティーを探し求める旅路にいるのです。